表紙 「ショッキングBoy」全3巻
月刊少年ジャンプ連載 集英社刊

 神楽坂――その名を口にするだけで、心が浮き立つ響きがある。神様も楽しむのだから人間様はなおのことだ。まして、坂の上にある盛り場とくればいやが上にも興趣も増そう。東京の真ん中にこんなレトロッぽい場所が残っていたことに今さらのように驚く。
 といっても古いだけではない。最近ではディスコもあるし、シブメの親父族だけが通う町ではない。学生や若いOLに も人気のトレンディスポットになっている。その昔、数々の文人に愛された歴史ある街ゆえか、それとも路地、石畳、料 亭といった花街情緒の残り香が人を招き寄せるのだろうか。新しい店も次々とオープン。この動きに老舗も手をこまねいてはいない。一見客を相手にしなかった料亭も次々と新基軸を打ち出して、盛り場神楽坂はいよいよ目が離せなくなってきた。
表紙 「ショッキングBoy ORIGINAL」全1巻
月刊少年ジャンプ連載 集英社刊

 地下鉄有楽町線南北線飯田橋神楽坂下口から、大久保通りをはさんで地下鉄東西線神楽坂駅矢来口まで、およそ一キロ。この道を一本の大木と仮定して、幹だけの紹介ならわけもないことなのだが、枝葉の路地横丁に逸れてこそ神楽坂の本領も発揮されよう。枝ぶりに力点がかかるのも無理はないとご承知願いたい。
 さて、どこから始めようか。神楽坂といえばやはり毘沙門天様、ここらの周辺からチェックしていこう。
 向こう隣のフルーツと洋食の「田原屋」は夏目漱石や永井荷風が愛した店、左後ろの銘茶店「楽山」脇の小路の小料理「めの惣」は、泉鏡花の名作『婦系図』にいわく因縁がある、本多横丁の入口のうなぎの「たつみや」はジョン・レノンとオノ・ヨーコがお忍びでやってきた店。と、こう書いていくと紙数がいくらあっても足りないなぁ……。が、とにかく気を取り直して独断で拾っていくしかない。
 軽子坂にあった時分の関西風うどん会席の店「鳥茶屋」は情緒があって素敵な店だったが、この毘沙門天前に移ってからはそれをさらに上回る賑いぶりである。女性が喜ぶ店の決定版といってよい。
表紙 「ショッキングBoy」全3巻
月刊少年ジャンプ連載 集英社刊

 その隣、酒亭「伊勢藤」は、酒は静かに味わうべしの店としてあまりにも有名。客の話し声が大きくなると“お静かに”の声が飛んでくる。斜め前の地下一階にある「汎汎(ふぁんふぁん)」は、靴を脱いで板敷きに上がる。椅子席八つと別に大テーブル席の離れがあり、大人数でも、小人数でもOK。ベテランの女板長が腕を振るう。 “めんたいタマゴ”など工夫に富んだ面白いメニューがいっぱい。客を取り仕切るママも愛敬があっていい店です。
 東京三菱銀行裏でひときわネオンサインが目立つのが、最近人気上昇中の新店三店。二階にあるトルコレストラン「ソフラ」は、炭火焼ケバブをはじめ、本格料理八十種。パンとトルコビールは特にいける。その上、ウドの生演奏もあり、静かでムードのある店だ。一階はいつも満員御礼のちゃんこ「黒潮」。コースメニュー〔ちゃんこ鍋・カツオのたたき・さしみ盛合わせ・とんこつ・おしんこ・ビール一本・お銚子二本でお一人様五、五〇〇円〕は安くて旨いので、人気がでないはずがない。岩下志麻そっくりのママが仕切っており、店内は活気に満ちている。地下一階は「MORIMORI屋」。ここは、にんにく・ とんがらし料理の店。店内はお洒落で陽気な雰囲気なので女性が大挙して押し寄せている。
 それに無臭にんにくを使用していることも女性に人気がある理由の一つではなかろうか。
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